科学を人類に役立て正しく発展させていくことを目指し、
現代と未来の課題に取り組む−−−日本科学者会議
現代社会において、科学と科学者の果たすべき役割は、ますます重大なものとなっています。科学の急速な発展は、コンピュータを利用しての大量・迅速な情報処理や宇宙空間の平和利用など、かつて予想もできなかったことを可能にしました。これらは、人間の頭脳が生み出した人類社会への大きな貢献であることは確かです。その反面、科学の成果が戦争や犯罪に利用され、多くの人々を殺傷し、時に子孫の代までとりかえしのつかない不幸をもたらすことが・ることは、核兵器や生物化学兵器の例を見ても明らかです。また、科学技術を利用した無秩序な生産・開発等にともなう環境汚染の問題も、地球規模に拡大し、人類の生存を脅かしています。
科学を人類に役立て正しく発展させるようにするためには、何よりも科学研究に携わる科学者がその社会的責任を自覚し、科学の各分野を総合的に発展させ、その成果を平和的に利用するよう社会に働きかけねばなりません。
日本科学者会議(JSA)は、まさにこうした目的を果たすためにつくられ、活動しています。1965年の創立以来、一貫して日本の科学の自主的・総合的な発展を願い、科学者の社会的責任を果たすため、核兵器の廃絶を含む平和・軍縮の課題、環境を保全し人間のいのちと暮らしを守る課題、大学の自治を守り科学者の権利・地位を確立する課題など、さまざまな活動を進めてきました。国際的には、1971年以来世界科学者連盟(1946年に創立、初代会長フレデリック・ジョリオ=キュリー)に加盟し、世界の科学者運動と交流を深め、核兵器廃絶をはじめとする諸活動で積極的な役割を果たしています。また、ユネスコとも研究連絡をとるなど、種々の国際的NGO(非政府機関)と交流があります。
JSAは、日本のすべての都道府県に支部をもち、大学・学校や国公立・民間試験研究機関などに分会・班があり、さまざまな活動を行っています。そうした活動には人文・社会・自然科学のすべての分野の科学者(研究者・教育者・技術者・弁護士・医師・大学院生など)が参加しており、個別科学分野の学会・協会とは異なる総合的観点から諸問題に取り組んでいます。
人文・社会・自然科学のすべての分野の科学者が協力しあって取り組むことが、多くの困難な問題の解明と解決の力になるのです。あなたの入会は、あなた自身に役立つとともに、そうした力をいっそう強めることにもなります。この機会にあなたが入会して下さることを心から期待します。
日本科学者会議代表幹事
木原正雄 長谷川正安 浜林正夫 本間慎 八木健三
活動のあらまし
科学の総合的発展をめざして
JSAは、学問がますます細分化されるなかで、科学の総合化をめざしています。このような創造的活動によってこそ、現代社会の提起する諸課題の解決に科学の成果を生かすことができます。阪神大震災の復興にもそうした視点が求められています。また、私たちは、原子力、災害、公害環境、薬害問題などについて調査活動を行い、研究会・シンポジウム等を開催し、その成果を普及してきました。これらの活動を集約する総合学術研究集会(1976年より隔年開催)では、人間と地球の未来にかかわる課題を学際的に研究し、科学者の社会的責任を果たす道を追求しています。
※総合学術研究集会 COMPREHENSIVE SCIENTIFIC STUDY CONVENTION(CSSC)
第1回 1976/12/11-12(東京大学)
学術体制の民主化と科学者の権利・地位の確立のために
JSAは、日本の科学を自主的・民主的に発展させるため、科学・技術政策のあり方を研究し、提言をしてきました。大学や国公立・民間の研究機関のあり方も検討してきました。日本学術会議に対しては、日本の科学者の代表機関としての使命を果たすよう求めています。
JSAは研究者が学問・研究・思想の自由を不当に侵害され、身分上の差別を受けることに強く反対し、そのような問題の解決のために努力してきました。女性研究者の地位向上や若手研究者の養成の課題も重視しています。さらに、民間企業に働く技術者・研究者の問題に取り組んでいます。
※「大学教員・研究者への任期制導入の法制化に反対する全国連絡会議」への参加。
科学者の社会的責任を果たすために
JSAは科学の反社会的利用に反対し、科学を人類の進歩に役立たせるよう努力しています。そのため、国内・国外の平和・独立・民主主義・社会進歩・生活向上のための諸活動と連帯して活動しています。
原水爆禁止世界大会への積極的参加やその一環としての「科学者集会」の開催など、被爆者援護と核兵器廃絶の人類的課題に積極的に取り組んでいます。大学・研究所の非核・平和宣言の運動を推進し、科学者の間での非核・平和の合意形成に努めてきました。また科学の軍事的利用・軍学協同に反対し、活動をしています。
憲法改悪や軍事大国化などの動きに反対し、民主主義を守り発展させる課題に他の科学者団体や大学関係団体と協力して取り組んでいます。
※原水爆禁止世界大会・科学者集会 SCIENTISTS FORUM of World Conference Against A&H Bombs
1987年8月8日(長崎)「核兵器廃絶・被爆者援護と科学者の責任」
国際活動の強化・発展をめざして
JSAは世界の科学者向けに、英文誌“Bulletin of JSA”(季刊)と“JSA Now”(月刊)を発行しています。1995年12月には創立30周年記念国際シンポジウムを開催するなど、アジアの科学者との交流を深めています。さらにJSAは自主的・主体的に世界科学者連盟の活動にかかわり、同連盟が国際社会のなかで影響力を発揮するよう努力しています。1997年現在、本会から副会長、常置委員会委員長、執行評議員が選出されています。またユネスコとも研究連絡をとっています。
地域・職場に根ざした活動
都道府県ごとの支部は、地域及び全国の課題にこたえる多様な活動をしています。JSAの最小の単位は、職場・地域ごとに組織される分会・班です。分会・班は支部・全国から提起される問題や独自の課題に取り組んでいます。また、会誌やニュースの配布、会費の集金などを行っています。
科学研究の成果を普及する活動
全国各地で市民講座・シンポジウム等を開催し、市民と対話を続けています。また、多くの刊行物を出版しています。
※最近の主な刊行物
『21世紀への躍進』全5巻(1988年)三省堂
人文・社会・自然科学を網羅した総合誌『日本の科学者』
JSAの会誌『日本の科学者』(月刊)は、1966年に創刊され、以来科学の全分野を網羅した総合学術誌として、日本の科学の自主的・民主的・総合的発展を願う多くの科学者の手によって育まれてきました。編集委員は各分野の科学者が担当し、ユニークな誌面づくりに努めています。
日本科学者会議創立宣言
自然と社会の心理を追求し、人類の進歩と人民の生活に科学を役立てることは、科学研究にたずさわるものの心からの願いである。
しかし、今日の世界情勢と日本の現実は、このような科学者の願いに全く逆行している。
ベトナムにおいては、アメリカの手によって近代科学が非道な殺りくと侵略のために利用されている。また科学のすばらしい成果である原子力の解放は、帝国主義の核脅迫の手段となっている。
日本においても、「日韓条約」の強行採決に見られるような民主主義を破壊する反動攻勢のもとで、軍国主義思想、アメリカ追随の思想が科学の装いをもって広められ、研究にたいする直接統制と莫大な資金「援助」によって、科学の自主的・民主的発展はいちじるしくさまたげられている。
日本の多くの良心的科学者は、劣悪な研究条件のもとで、科学の正しい発展をねじまげる内外の反動勢力とたたかい、科学者の本来の使命を果たすために奮闘してきた。
われわれは、困難な状況にもかかわらず、アメリカの対日文化工作や教育の反動化、研究費の削減、大学研究機関の国家統制や軍事研究などに反対する運動、原水爆禁止の運動、アメリカ原子力潜水艦「寄港」、アメリカのベトナム侵略・毒ガス使用や「日韓条約」、憲法改悪に反対する運動北京科学シンポジウムのような民主的科学者の自主的国際交流のための運動をおしすすめ、また、健康を守り、「公害」に反対する運動、などにとりくみ、数多くの成果をあげてきた。
また、それらの運動むすびついて、科学上の研究成果をあげ、人民の要望にこたえる努力をしてきた。そしていくつかの分野では、民主的な科学者の組織もしだいに強化されてきた。
いま、これらの運動をいっそう発展させるために、日本の民主的科学者が、専門別、地方別、学校別などのわくをこえ、世界観や研究方法のちがいをこえて、全国的にその力をあわせることは、緊急にしてかつ重大な使命といわなければならない。
われわれは、ここに日本科学者会議に結集する。
日本科学者会議は、規存の民主的科学者の諸組織と心から協力・提携し、世界の民主的科学者運動と連帯をつよめ、日本人民のたたかいのなかで、科学の発展を妨害するものとたたかい、科学を正しく発展させ、科学者の責任を果たすため、ただちに全面的な活動を開始する。
われわれは統一と団結をかたく守り、慎重に着実に力強く前進するであろう。
ここに日本科学者会議の創立を厳粛に宣言する。
1965年12月4日
日本科学者会議創立発起人総会